出た! 「声帯結節(けっせつ)」!

「新宿ボイスクリニック」はJR新宿駅を新宿区役所脇の出口から出て、靖国通りを花園神社方向に3、4分歩いた所にある。実に近い。この隣にあるビルは十数年前に結婚した時に写真を撮ったスタジオがあるビルダから妙になじみ深い場所でもある。確かあの時も近いからという理由だったような気がする。

 お決まりの初診手続きを終え、そこそこの待ち時間で診察室に呼び入れられると若い先生が待っていた。

「はい、どうなさいましたー?」

 一瞬「しまった」と思った。いや大した問題ではない。若くて小柄な先生が「八嶋智人」みたいな感じだったと言うだけの話である。後で考えたらメガネが目立っていただけでそんなに似てもいなかったのだが、ノリの軽さがあんな感じだった。

 普通だったらそれが「親しみやすさ」に通じたのかもしれないが、生活に関わる症状で三院を渡り歩いてきた私はとにかくナーバスになっていた。コミュニケーションしづらいくらい無愛想なドクターXに出て来られても困るが、その時の気分としてはなんて言うか、もっと落ち着いた威厳が欲しい気分だったのである。

「実はこれこれで……」

「じゃあ見てみましょう」

 何はともあれ「ストロボ・スコープ」である。「どうせ腫れてるのがわかる程度なんじゃないか」と思いつつ、撮られる事に慣れてきた自分を感じる。「あーーーー」と発声しながらも、撮影の瞬間に「おえっ」となるタイミングを微妙に外せるようになっていた。映った画像も「T診療所」の時よりはやや鮮明に見えた。

 ……と、発声中の動画が映った途端、先生が画面に顔を近づけた。

「ん? ……ほー、ははあ」

「なにか?」

「声帯の表面がちょっと、異常と言えば異常な……」

 一応「声の仕事」をしている人間だから、「声帯の異常」に関しては若干の知識がある。「ポリープ」だったらもっとはっきりと声がおかしくなる、としたら……

「それはもしや声帯結節ってヤツですか?」

「そうですねー、結節と言って良いでしょうねー」

 なんで先生がそんな煮え切らない答えになってしまったのかと言うと、私の「声帯結節」がちょっと変わっていたからだった。

「声帯」とは、2つの粘膜がV字型に組み合わさった器官である。そしで「声帯結節」とは、普通はV字の指で言うと根元の方の両側にできる物なのだ。ところが私の場合は異変が片側だけ。しかも普段はスコープから見ると「ちょっと裏」にあって、声を出した時にのみやや前に表れるという、何とも半端な状態だったのである。

 忙しい「T診療所」では見つからなかったはずだ、と、ちょっとフォローしておこう。

 ともあれ、

 半端だろうがなかろうが、結節しているからには「声帯結節」である。

「病名」が判明して、ついに戦う相手が見えてきた。

(続く)

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