決断! …って遅いよ
7月12日金曜日、事務所にて来週早々の仕事の台本とビデオを受け取る。
「妖怪ウォッチ」は無茶な発声が必要になる場合が多いから発症後すぐ病院に行ったのだが、こんなに長いこと治らないとは思わなかった。
恐る恐る台本を開いてみると……
あー「キツいやつ」だー。
もそもそ悩んでいる時間は無い。事務所に調子が悪い事を伝え、万一の場合は先方に連絡してもらうよう段取りをつける。
しかし、
事ここに至ってなお、私は「風邪」が元の「咳ぜん息」が悪さをしているものと信じていた。なぜなら数年前に風邪がこじれておかしくなった時、あの「呼吸器科」のN先生の見立てが速くて正確だったからだ。今回も、元の「咳ぜん息」さえ治せばそれにつれて症状も改善すると信じていたのだが……
7月16日月曜日、
「万一」って割と簡単に起きるんだね。
間に合わなかった。
真面目に、正確に薬を飲み続けたのだが、それでも「声」は治らなかった。かつてこんなに長く不調を治せなかった経験が無かったので判断が遅れてしまった。
週明け朝イチで事務所に連絡。
収録不可を連絡していただき、他の受注も一旦ストップである。
生まれて始めて自分の体調で「本番」を休む事になってしまった。
現実のこととは思えずしばしぼんやりしてしまう。が、こうなってしまったからにはしかたがない。まさか1週間後の「抜録り」まで休んだらシャレにならないから、最速で症状を改善する道を選ばなくてはならない。
となると「あそこ」しかないだろう。
ああー、ついに「あそこ」かよー……
翌7月17日、
本当は収録のあるはずだったその日、私は有楽町に向かった。
「あそこ」、すなわち、「声の仕事」をしている人だっら1度はその名を耳にするであろう超有名耳鼻咽喉科「T診療所」で診察を受けるためである。
「呼吸器科」では「出した薬を使い切ったら来るように」と言われていたのだが、これほどまでに治らないからには、どこかがピンポイントで「悪いもの」が定着しているに違いない。それが何で、どう退所すれば良いのか? 来週の収録までには是が非でも確かめ、対処なくてはならないのだ。
「呼吸器科」で処方された薬を携えつつ、私は恐る恐る「T診療所」の待合室に入った。
……と、ここで、
「何でプロが自分の声の調子もわからないんだよ」と思った方に弁明しておきたい。
「声優」と一口に言っても色々なタイプがあって、特に大きく分けられるタイプに「1声型」と「7色型」がある。「ああ あの声の」と驚くか「え、あの役も?」と驚くかという違いだ。
私はどちらかというと後者で、発声器官のコントロールで日常的に5人くらいを出し分けている。だから部分的に調子が悪いくらいだったら難なくできてしまう「役」があったりするのである。
今回「不調」なのは「音程」で言うと中音域から高音域に移行する、いわゆる「ミドルボイス」の一部分だから、「音域の広い持ち歌がある歌手」だったら「ライブ中止もやむなし」ってくらい致命症だろう。
ところが、「自転車操業の7色タイプの貧乏声優」の場合は、5人チーム中のたった1人だけがやや不調という程度の雰囲気になってしまうから、まことに判断しにくい状況に陥ってしまうのである。
一旦お引き受けしたお仕事をキャンセルするくらいだったら、多少調子が悪くても無理してその日に強行してしまった方が迷惑度はずっと低くなる。そう思うとついつい強行しがちになってしまうのである。
(続く)
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